ゲートキーパー法
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ゲートキーパー法に対する私の評価
先月、仲間の司法書士7人で集まったときに本日の総会のことがテーマになり、3時間以上にわたってゲートキーパー法と会則改正について議論しました。その議論のなかで、ある司法書士がこの法律のことを犯罪防止のために国民が政府の門番になる法律であるといいました。なるほど、ゲートキーパー法とは名前のとおり「門番」の法律だなと思いました。
私はこの法律を一言でいえば「密告のすすめの法律」だと思っています。総会資料6ページのゲートキーパー法9条を見てください。条文のタイトルが「疑わしい取引の届出等」となっていますね。今回司法書士は9条の適用が除外されていますが、それ以外の銀行、信用金庫、保険会社、信託会社、宅地建物取引業者などの38の特定事業者は「特定業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いが」ある場合は、政令で定める次項を「行政庁に届け出なければならない。」ことになっています。そして、ゲートキーパー法4条(本人確認義務等)、6条(本人確認記録の作成義務等)および7条(取引記録等の作成義務等)の規定に基づき、本人確認をし、本人確認記録を作成し、取引記録等の作成する目的は、9条の届出をすることなのです。つまり、ゲートキーパー法4条・6条・7条の本人確認・本人確認記録と取引記録の作成と9条の届出は一体不可分のものなのです。そして、今回司法書士に対する9条の適用は見送られましたが、法律が改正されて9条の届出義務が司法書士に課される可能性があります。
犯罪の無い社会のほうがよい社会と言えると思いますが、旧東ドイツのような密告社会・国民相互監視社会がよい社会と言えるでしょうか?言えないと思います。
ゲートキーパー法は、密告社会・国民相互監視社会をめざす法律であると思います。
平成19年12月15日開催の群馬司法書士会臨時総会に対する質疑通告書
臨時総会議長 様
平成19年12月10日
高崎支部 稲垣 正晴
第1 法律の規定を超えた義務を会員に課すことに関する疑問
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「ゲートキーパー法」という)は、本人確認記録および取引記録等を7年間保存することを定めている。会則に違反すれば懲戒処分を受ける可能性があるのであるから、会則でゲートキーパー法の定めを超える10年間保存を規定してこれを会員に義務付けることは違法・不当ではないか?
- 上記1に関連して、会則が改正されれば会員を通して会員の依頼人に自己の記録が10年間保存されることを強いることになるが、それは違法・不当ではないか?
第2 日司連総会で反対決議をした法律に基づいて会則改正することの疑問
- ゲートキーパー法について日司連は総会で反対決議をしたのに、なぜ、その法律に基づいて会則改正することを各単位会に提案するのか?
- ゲートキーパー法について群馬司法書士会執行部はどのように評価するか?
第3 本人確認と意思確認を会則で義務化することの疑問
- ゲートキーパー法における本人確認と登記申請における本人確認および意思確認並びに司法書士に求められるコンプライアンス(法令遵守)を同列に論じられるのか?
- 私は、登記申請における本人確認および意思確認義務を直接根拠付ける法的根拠となる法律は存在していないと考える。司法書士が登記申請の代理人としての委任契約に基づく注意義務として登記申請人の本人確認および意思確認の義務を負うことがあるが、それは職業人である登記申請の代理人としての委任契約に基づく善管注意義務から導かれるものである。「司法書士は、・・・・登記申請人の本人確認および意思確認をすべき」と規定された法律はない。登記申請における本人確認および意思確認義務違反を理由とする法務局による懲戒処分は、司法書士法第2条の「司法書士は、品位を保持し、業務に関する法令および実務に精通して、公正誠実にその業務を行なわなければならない。」の品位保持規定を根拠にしているものであると私は考える。以上の考えを前提に以下述べる。
- 登記申請における本人確認および意思確認は、すべての案件に必要なものではなく、宅地の売買の例でいえば売主本人かどうか疑われる場合や売主の売買契約を締結する意思や所有権移転登記申請意思がないのではないかと疑われる場合に登記申請の代理人としての委任契約に基づく注意義務として本人確認および意思確認が義務付けられるのである。また、買主への所有権移転登記を有効なものとするために登記申請の代理人としての委任契約に基づく注意義務として売主の本人確認および意思確認を買主のそれよりも重要視することになるのである。それは売買代金を取得するだけの売主と不動産所有権に基づく登記名義を取得する買主では注意義務の程度が同じではないからである。つまり、宅地の売買の例でいえば、一律にすべての所有権移転登記申請において売主・買主の本人確認および意思確認を会則で義務付ける必要があるのか?司法書士は運転免許証の提示を受けなくても、今まで生きてきた一人の人間としての経験則と司法書士としての経験に基づいて本人確認と意思確認をする場合もあるのである。
- 上記3に関連して言えば、登記申請に関する委任契約に基づく代理人でしかない司法書士が法律の根拠も無くて公証人のような存在になることができるのか?
- 上記4に関連して言えば、公証人のような存在になることを求めているのは誰か?国民かあるいは司法書士か?
第4 理事会に白紙委任すること(改正案会則第91条の2第3項)に関する疑問
- 日司連から今回会則改正にともなう理事会規定基準案が群馬会にも送付されていると思うが、他会ではそれを会員に配布しているところもあるのに、群馬会において会員に配布しないのはなぜか?
- 私が入手した理事会規定基準案によれば、ゲートキーパー法の特定業務以外の依頼事務の場合でも「司法書士の職責に照らして適切と認められる方法」により本人確認を義務付けているし、また、意思確認についてはゲートキーパー法の特定業務か否かを問わず義務付けている。群馬会が予定している理事会規定も上記と同様のものか?
- 私が入手した理事会規定基準案によれば、理事会規定は本人確認および意思確認の範囲・方法・その記録様式を定めるので、その内容如何によって、会則違反か否かひいては懲戒処分に該当するかが決定されることになる。また、理事会規定は、理事会の決議で改正することができる。つまり、執行部が変われば理事会規定が変更されることもありうるのである。このような会員の懲戒処分を左右するような重要なことを理事会に白紙委任することが許されるのか?
第5 改正後の会則は国家公安委員会に懲戒処分を行うべき旨の意見陳述を可能とするのではないか?
- ゲートキーパー法17条により、国家公安委員会は、司法書士がゲートキーパー法4条1項ないし3項までの本人確認義務等に違反していると認めるときは、国家公安委員会は法務大臣(ゲートキーパー法20条1項15号)に対し、法務大臣(司法書士法47条では法務局長または地方法務局長)がその司法書士に対して司法書士法により会則違反(ゲートキーパー法4条1項ないし3項までの本人確認義務等と同じ内容の義務を定めた会則違反)を理由に懲戒処分を行うことができる場合にはその懲戒処分を行うべき旨の意見を述べることができるのではないか?
第6 ゲートキーパー法によれば、同法4条(本人確認義務等)、同法6条(本人確認記録の作成義務等)および同法7条(取引記録等の作成義務等)に違反してもそのことだけでは刑罰を科されないが、改正後の会則により上記の本人確認義務他に違反しただけで懲戒処分を受けることになり、会則改正は法律より重い不利益を会員に強制することになるのではないか?
- ゲートキーパー法の司法書士に科される罰則は同法23条、同法24条および同法27条である。
- 同法23条は、同法16条の法務大臣の是正命令に違反した司法書士に対して刑罰を科す規定である。
- 同法24条1号は、同法13条若しくは同法17条2項の報告などをしなかった司法書士に対して刑罰を科す規定である。
- 同法24条2号は、同法14条1項若しくは同法17条3項の法務省や都道府県警察の職員の質問に対して答弁をしない若しくは虚偽の答弁をしたなどの行為をした司法書士に対して刑罰を科す規定である。
- 同法27条は、司法書士法人並びに司法書士法人の代表者および使用人その他の従業員が同法23条および同法24条に違反した場合にその司法書士法人に対して刑罰を科す規定である。
- 以上のとおり、ゲートキーパー法によれば、同法4条(本人確認義務等)、同法6条(本人確認記録の作成義務等)および同法7条(取引記録等の作成義務等)に違反してもそのことだけでは刑罰を科されない。
- しかし、改正後の会則により上記6に記載した本人確認義務他に違反しただけで懲戒処分を受けることになり、会則が法律より重い不利益を会員に強制することになるのではないか?
- 「国民の権利の保護に寄与する」(司法書士法第1条)ことを使命とする司法書士は、会員も含めた国民の権利に関して常に重大な関心を払い、権利が不当に侵害されないように心がけなければならないと考える。そのような司法書士が会則により、法律より重い不利益を会員に強制することが許されるのか?
第7 懲戒処分の増加に対しては懲戒処分を受ける可能性がある会則を作ることではなく、研修会や例えば「ゲートキーパー法施行にともなう司法書士執務に関する説明会(仮称)」などを通して対応すべきではないか?
- 上記第3の2に記載したとおり、登記申請における本人確認および意思確認義務違反を理由とする法務局による懲戒処分は司法書士法2条の品位保持規定を根拠にしているが、会則改正後は会則違反を理由に懲戒処分をすることになるので、懲戒処分をされる会員が増加するのではないか?
- 懲戒処分が増加しているというが、実際に我々の執務に問題があったのかどうか懲戒処分事例の中身を考えてみると、我々司法書士の執務としても問題ないと判断したケースで実害のない事例までも懲戒処分にされているのではないか?我々司法書士は、登記申請人の本人確認と意思確認をどの程度するかを一律ではなくケースバイケースで判断してきた。そしてその結果、登記申請人と直接面談しなくても問題ないと判断して登記申請することもある。それは例えば抵当権抹消登記の登記権利者であるか登記義務者であるか、所有権移転登記の売主か買主かで判断してきたし、登記申請人と司法書士との間をつないだ人間が誰であるか、またどのような立場の人であるかで判断してきたのである。つまり、司法書士の経験とすべての五感を使って判断してきたのである。それは、また、登記申請手続に使用するコストと時間という社会性と経済的相当性ともからんでいるのである。つまり、司法書士としてここまで本人確認と意思確認が必要であるという判断に基づき社会的・経済的に許容される程度の本人確認と意思確認をしてきたのである。運転免許証などの身分証明書の形式的な確認がすべてではないのである。つまり、法務局の考える本人確認・意思確認はあまりに形式的であり、実際の司法書士執務(現実の社会で必要とされる司法書士執務)を理解していないから、我々司法書士の執務としても問題ないと判断したケースで実害のない事例までも懲戒処分にされているのではないか?
- 懲戒処分を防ぐには、懲戒処分を受ける可能性がある会則を作ることではなく、研修会や例えば「ゲートキーパー法施行にともなう司法書士執務に関する説明会(仮称)」などを通して対応すべきではないか?執行部は会員を信じるべきである。
第8 総会にいたるまでの会員への説明があまりにもされていないのではないか?
- 会則第40条2項で総会の招集通知は会日から2週間前に招集通知を発送しなければならないが、総会の招集通知はいつ発送したか?
- 今回の会則改正は、ゲートキーパー法という国民の人権問題に深く関わる法律の施行に備えるものであり、また、司法書士の懲戒処分に関係するものである。つまり、大変重要な会則改正なのに、今年の9月くらいから司法書士会や支部で説明会を開くあるいは説明文書の配布という方法による会員への説明がなかったのはなぜか?
- 本日群馬会の理事会規定を会員に発送するそうだが、会則改正に関して会員が十分議論して総会を開催したといえるのか?よくわからない会員が多数いるのにもかかわらず重要な会則改正をしてよいのか?
平成19年12月15日開催の群馬司法書士会臨時総会に対する質疑通告書2
臨時総会議長 様
平成19年12月14日
高崎支部 稲垣 正晴
第1 本人確認に関する規定(案)(「以下理事会規定案」という。)についての疑問
- 理事会規定案第12条の「受託事件終了日」とはいつの日のことか?
- 理事会規定案第6条1項および第7条の「委任契約の終了日」とはいつの日のことか?
第2 改正後会則と司法書士法第21条の「正当事由」についての疑問
- 改正後会則に基づき本人確認記録などの記録を司法書士が10年間保存することに同意しない依頼人に対してはその依頼を拒んでよいか?つまり、改正後会則に基づき本人確認記録などの記録を司法書士が10年間保存することを依頼人が同意しないことは司法書士法第21条の「正当事由」に該当するか?
- 上記1に関連して仮に群馬司法書士会執行部の回答が、上記1の依頼人の不同意が司法書士法第21条の「正当事由」になる、とするとその法的根拠・法的理由は何か?